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"会いたい"

 

私の考えの甘さが、迷惑をかけることになってはいけないと、いつも何かしら悩んでいるのにさらに頭を悩ませる。

 

唇を軽く噛み締めながら、目に溜まった涙で視界が歪んだ。

 

彼の周りにはたくさんの人がいて、"私ごときがそこに存在していいのか"と考えを巡らせる。

 

私の中で答えは出ていたようだ。

欲は言わない。

ただそこに存在する彼を遠くからでいいから見ていたいのだ。

 

『私がいても迷惑にならないだろうか…?』と震えながら、キーボードを叩く。

安くて硬いアルファベットの重みが指先から、心臓を叩いて、今にも壊れてしまいそう。

 

「図太くあれ」と言われ

曖昧なその答えに、安堵する。

 

ほんの数秒間、重たかったはずのアルファベットが軽くなって、今がチャンスと言わんばかりにたった3文字に記号を添えた。

すぐにいつもと変わらない重みに変わった。

まだ最後のキーを叩けていない。

押すかどうか躊躇したせいだ。

勢いが足りない。何かきっかけが欲しい。

あった。私の"欲望"が。

 

さながら、ラブレターをポストに入れるかどうか迷っているような気分だった。

書いたこともないがな。

 

そしていつもより少しばかり近い場所で、ただモニターを眺めながら、この瞬間が幸せだと感じている。

 

少しの不満はあって、"2人"ではないということだ。

多分、独り占めしたいのだろう。

かましい感情だ。消え去ってしまいたい。

大して面白い話ができるわけでもなく、何だったら無言のことの方が多い気がする。

ただの独占欲とは。愚かだろう。

 

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ドアを開け、お気に入りの部屋に入り、ソファーに座る。

『気づけば数時間そこに居た』ということはざらにあった。

それほどに会いたいと願っているのだ。

出会った時から変わってはいない感情だ。

 

会わない時というのは、長いときで1年ほどあいたときもあっただろうか。

けれども、どれほど時間が経っても忘れさえできない。

ふとした瞬間に、会いたいと思うのである。

 

その理由を何故だろうと考えたことはない。

だって、ただ会いたいのだから。

その衝動に動かされている。

 

彼はそこに居るのに、私から会いに行くことさえ滅多にない。

玄関先で立ち止まって、見えるはずもない部屋の中を想像しては立ち去る。

嫌われるのが怖いというのもあるが、

そこは"彼の居場所"であって"私の居場所"ではない。

 

だから、私は動かない。

 

お気に入りの部屋で、"彼"という尋ね人を待っている。

静かな部屋でひとりきり。

 

彼のことを何も知らない私は、興味を惹く話もできない。

画面の向こう側の彼はどう思っているだろうか。

私は得体の知れない"何か"に怯え続けている。

それでもドアはいつも開けっ放しだ。

少し期待しているのかもしれない。

 

大切に思う人が、自分の近くでなくとも、ただそこに"存在している"ということだけで、私は満たされる。

だからその孤独な時間さえも楽しいのだ。

欲は言わない。言ったらキリがない。

 

死ぬまでに一度、声が聞ければ思い残すことはないだろうか。

これも欲か。

いけない、嫌われてしまう。