死にたがりの私とシフォンケーキ
はじまりはたった一つのシフォンケーキだった。
日曜日の朝、彼が言った。
『二階の冷蔵庫に、昨日買ってきたお昼ご飯入れといたから食べな』
「わーい。ありがとう。」
私はそう言って、二度寝をした。
前日の土曜日は、高校時代の旧友と女4人で居酒屋に行ってきたのだ。
結婚生活において否定されてきたが、この2年間でたった一度の友人との外出だった。
帰宅したのは0時頃で、お風呂に入ったり洗濯をしたりで、寝たのは3時頃だった。
起きたのは日曜日の11時頃。
少しお腹が空いてきたころに、彼が何か買ってきたと言っていたのを思い出して、二階の冷蔵庫を開けると、そこには某ケーキ店のシフォンケーキが入っていた。
私はそれを不思議に思った。
彼は一人で行動するような人ではないし、ケーキ店に一人で入るような人でもないからである。
ただ例外はあって、女のためならどこまでも行動力があるということだ。
私の時がそうであったように。
私は前日の出来事が気になったのをきっかけに、ドライブレコーダーを確認することにした。
そこには衝撃の映像が映っていた。
一週間前の土曜日からの映像しか残ってはいなかったが、数多い嘘は暴かれた。
『毎週木、金、土はパチンコに行くから、閉店時間から帰って来て23時頃になる』
と彼は言った。
しかし、その週のドライブレコーダーには、一度たりともパチンコに行った映像は残されていなかった。
一週間前の土曜日の映像には、画面の端に女性らしき人影が映っていた。
彼女は運転席側の少し前の方に立っていて、どうやら帰宅する彼を見送りに来たのだろうということが容易に想像がつく。
駐車場から彼が車を少し進めて止まると、彼女は一歩前に出て、何やら別れ際の挨拶をしているようだった。
そして彼は、いつものように23時頃帰宅したのである。
木曜日のお昼頃には既に会社を出ていて、彼女の家に向かったのだろう。
12時17分にはその場に到着し、22時35分まで車がそこから動くことはなかった。
フロントガラスは結露で前が見えなくなっていて、乗車していた形跡もない。
この日のLINEでは、19時22分に「会社終わったよ~」と送られてきており、彼の嘘が確定した。
バイクで通勤した日以外は、毎日彼女の家に行っていることが明らかになった。
そして私が気になっていた、土曜日の夜の映像では、某ケーキ店でシフォンケーキ以外にも買っている姿が映っていた。
その足で彼女の家に向かい、それからまた22時31分まで車が動くことは無かった。
そして帰宅した彼はシフォンケーキ以外のものは持って帰ってこなかったのだ。
さようなら私の人生2年分
さようなら信頼
さようなら愛情
さようならアナタ